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「痴人の愛」の感想とナオミについて考えてみた

痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛 (新潮文庫)

まず諸注意としましては、個人的な感想文色が強いです(笑)。 そちらだけご了承お願いします。

痴人の愛谷崎潤一郎ファンの中でもこの作品に惚れ込んだ人は少なくないはずだと思います。
13も歳の離れた美少女を自分の理想の女に育てようとした男のエゴイズムと、欲望に溺れていく様を書き表した1作品です。

私が初めてこの作品を読んだのは確か高校生の頃だったと思います。
なぜ男はここまで自分勝手な女から離れることができないのか、なぜ女は15から何不自由なく育てあげた恩人に対し傲慢な態度を取れるのかが理解ができず苛立ちさえ覚えていました。

ただ、何人もの男を同時に惹きよせ、そして1人の男の人生を狂わすほどの魅惑を持つナオミは同じ女として憧れてしまうものであり、
私のこれまでの恋愛観に何か大きな衝撃を与えていきました。恐らく私もいつの間にかナオミの魅惑にハマってしまっていたのかも知れません。

そして時が経ち、再びこの本を手に取りたい衝動に駆られました。
大人になった今の私が再びを読めば一体どんな感想を抱くのであろうか。
内容はもう既に知っているはずなのにそんな興味を持ちながら私はページを捲っていました。

そして、私はとある一か所にふと疑問を持ちました。

彼女の顔はその時一層、どす黒いまでにまっさあおになり、瞳を据えて私を見ている眼の中には、殆ど恐怖に近いものがありました。

物語はナオミが自分が永遠に贅沢で自由な暮らしをするという条件を引き換えに、譲治の元にいるというところで終わるのですが、
譲治はこの取引自体がナオミが計算していたものだということに気が付きます。 しかし、ナオミは譲治にこの取引を持ち出す前に、一瞬譲治の取り乱した姿を見て青ざめています。
「果たしてナオミは本当にこの取引を求めていたのだろうか」こんな疑問が私の頭の中によぎりました。
物語は始終「譲治」目線で描かれていて、ナオミの感情や思考は読者は一切解説されていません。
そこで私はナオミとして、女目線としてこの物語を読んでみることにしました。

まず、15の時に13歳も上のアルバイト先の常連さんから面倒を見てあげるということを提案され、引き取られることになります。
まだここまでのナオミの心境としては恐らく「面倒見のいいおじさんが贅沢な暮らしをさせてくれる」とラッキーくらいにしか思っていないでしょう。
まだ物事の良し悪しが分かり始めたばかりの少女に成人した男性と2人で暮らすということがどういうことなのか、深くは考えていなかったのではないかと。

そしてナオミも日が経つにつれ、自分がなぜこの人に引きととられることになったのかを悟るようになり、 これまで贅沢な暮らしをさせてもらいながら育てられたという恩半分、 どうせ実家に戻って親が持ってくる縁談に乗ってもこんな贅沢はできないからこのままここにいようという気持ち半分で譲治の妻になることを決心したのかも知れません。

しかし、いざ妻になると決めたものの譲治は勉強することばかり勧め、知り合いも特にいないナオミは毎日家の中で退屈な日々を過ごします。
まだまだ友達と遊び足りない10代の子に家にずっと1人でいろなんて拷問でしかないはずです。
では、ナオミに健全な女友達が出来る環境があれば不貞を働いてしまうような男友達はできなかったのか。
15の頃から譲治に愛でられ、多くの羽織物を持ちいつも西洋人のような恰好をしているナオミです。
きらびやかな着物を持つナオミに嫉妬しない15歳の女の子はいないはず。
欲しい物はなんでも与えられ、わがままに育ち、尚且つ外見はかなりの容姿を持っているのですからナオミに男友達しかできなかったのは不自然ではないでしょう。

ただでさえ家にいることに窮屈に感じているのに、15から見たらおじさんである譲治からのねちっこい愛情と異常なほどまでの肉体への関心。
門前払いをされる実家。逃げ場がないナオミが自分の精神を守るためには強情にならざるを得なかったのではないでしょうか。

それでも譲治を手放してしまうえば、本当にナオミのことを愛している人を失ってしまう。
親と子のように憎みくれないところがあったのからこそ、ナオミは家を飛び出した後戻ってきたのではないかと思っています。
ナオミにとっての譲治との調度よい距離感が最後妻に戻る前の「友達」の関係性
でしたが、それを譲治は拒否しもう一度妻として戻ってきてくれるように手をついて懇願し、その狂った姿を見たナオミは恐怖を感じ、
「絶対的に譲治よりも絶対的に上に立たなければならない」と考えたのではないのじゃないかと。

と勝手にナオミ側を私なりに感想交えながら妄想という解釈をしてみました。