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「未来」(湊かなえ)のあらすじと感想

未来

気づけば『告白』から10年経っているんだなぁと時間の流れの速さを感じながら書店で手にしたのが湊かなえさんの『未来

イヤミスの女王”とも言われる湊かなえさんの特有の構成で話は作られています。

章ごとに変わる語りて視点、読み進めるごとに暴かれる真実、めくればめくるほど語り手と一緒に闇にずるずると引きずりこまれていく感覚が味わえます。

 

 

<あらすじ>

(※ネタばれ注意※)

物語の始まりは未来の自分と名乗る、30歳の主人公「章子」から手紙が送られてくるところから始まります。受け取った章子は10歳。その時章子は大好きなお父さんを亡くしたばかりの頃。手紙には「わたしがあなたに手紙を書く事にしたのは、あなたの未来は、希望に満ちた、暖かいものである事を伝えたかったからです。」と書かれ、10歳の章子を励ますような内容になっていました。

章子はその手紙が本物の未来からの手紙だと信じ、未来の自分に手紙を届ける術はないも、30歳の章子に向けて自分に起こった出来事を手紙に綴っていきます。

まだ10代の章子には重たすぎる出来事も未来の章子からきた言葉を信じ今起こっている出来事は全て試練だと捉え、強く生きようとします。

 

一方、未来の自分から手紙を受け取ったのは章子だけではありませんでした。章子の同級生の亜里沙も未来から手紙を受け取っているのですが、亜里沙はそれが本物の手紙でないことに気づきます。

 

章子と亜里沙。それまで2人は友達と呼べるほど深く関わったことがなかったですが、章子のいじめをきっかけに2人の関係性は突然深まります。そして関わってしまったが故に2人は自分たちの家族の「壊れていった真実」を知ってしまい、ある決意をします。

 

静かに、深く、何度も突き刺される感覚

話の終わり方としては恐らくキレイな終わり方をしています。

後味が悪い終わり方では全くありません。

なのに、なぜか私は読み終わったあと2日間ほど虚無感に襲われてました。

 

主軸となる「章子」のストーリーが未来の自分に書く手紙方式なので、物語が非常に淡々と進みます。なので、自分では気づいていないうちに「実は深い衝撃を受けていたのだな」ということに読み終わってから気づきました。

 

語り手たちの闇がとにかく深い

告白」の構成と同じように章ごとで語り手視点が変わっていくのですが、その語り手たちに降りかかる出来事がどろどろしているというか、残酷というか。

 

なんせみんな家庭環境が複雑です。

特に今回の作品「親」というところにスポットライトが当たっているような気がします。身勝手な親の元に生まれてしまったが故に不幸な道を歩まざるを得ない「子供」たち。決して弱く、脆くはないけれども、強くもない子供なので自分の心を守ろうとし、どこかが壊れていってしまいます。

自分が果たしてそうだったかは、もう10年以上も前のことなので記憶がかすかですが、子供って大人が思っている以上に深く考えるし、周りの顔色もよく見えてしまうので、どこか自分を犠牲にしてしまうところがあるのだと思います。

きっとそれをどこかで自分も経験してるからこそ、この物語で子供たちに降りかかってくる闇が読んでいる読者の心をチクチクと刺すのかもしれません。

 

目の前の状況から早く抜け出したくなるイヤミス

「未来」という希望を表すはずの言葉なのに、内容は「絶望」に近いかもしれないです。

とにかく今起こっている状況から「早く抜け出したい」という気持ちと、テンポのよい文章ですらすらと読めてしまいます。

私は「早く続きが気になる!」というよりは「とにかく早くこの状況を抜け出したい!」と登場人物の気持ちが乗り移ったようにどんどんページが進んでいきました。

ページ量としてはしっかり目にありますが、文章のテンポがいいので一気に読み切ってしまいました。