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「女って恐くて最高」と震えさせられる小説を5冊選んでみた

女性特有の「執着」や「ぶっ飛んだ腹黒さ」を繊細に描かれている5冊です。 pascalpascal.hatenablog.com これのパート2のようなものだと思ってください。 普通の物語やミステリーじゃ物足りないと感じている人は是非。

1)BUTTER

BUTTER

BUTTER

男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。 (http://www.shinchosha.co.jp/book/335532/

実際にあった結婚詐欺殺人事件をベースにこの物語は書かれています。
この事件は私もかなり印象強く覚えていて、「え、この人が結婚詐欺をしたの?」と世間の誰もが同様に感じた疑問を持ちました。

「梶井が本当に犯人なのか」というミステリー小説だと途中までは思っていたのですが、そうではなく、「女性の生き方」がテーマになっているのだと気づかされました。

女性が仕事で成功する難しさ、時にライバルであり時に恋人以上の友人関係、恋愛と仕事の両立など、どのシーンも働く女性であれば強く共感ができるはずです。

何よりも梶井や理佳を見ていて感じたのが、「男性では埋めきれない心の寂しさがあり、逆に女友達でも埋めきれない心の寂しさ」があるということ。
読んでいて「はっ」と気づかされました。

後、やっぱり見どころなのは梶井の洗脳的なテクニック。 男性だけでなく読み手の私たちまでをも洗脳させる彼女の思考力。 彼女の罠はどこから始まっていたのでしょうか。

2)女であること

女であること (新潮文庫)

女であること (新潮文庫)

川端康成好きにはきっとたまらない、どっぷりと川端ワールドに浸かれる長編作品です。

「春のはじめの女の朝寝は、とろけるように甘くて、幸福が来そうに思える」

この一文好きな人多いんじゃないでしょうか。
とにかく表現がすごく繊細且つ官能的。

こんなにも女性を美しく表現しているのに、女性が内面に抱えている「嫉妬心」や「プライド」が忠実に描かれています。

ここまで複雑で面倒な女心を理解してくれる男性はいないでしょう。

物語は市子、さかえ、妙子、この3人の女性たちの語り手視点から構成されています。

けれどもやっぱり注目的なのは、初めは自分の憧れであった市子を追いかけて上京してきたさかえが、市子に嫉妬し敵意を見せるようになること。

元々は市子のようになりたいと思っていたさかえが、市子の夫に恋い焦がれるようになり、「若さ」と「女」の部分で手に入れようとします。

バチバチの女同士のキャットファイトではなく、やはり時代を彩っていて「大和撫子」的なキレイな戦い方なんですよね。

3歩引いて歩くけど、互いに譲りたくないからギリギリのところでしがみついている。そんな感じです。

3)アルテーミスの采配

アルテーミスの采配 (幻冬舎文庫)

アルテーミスの采配 (幻冬舎文庫)

読み始めて数ページで「あ、これは堕ちる」と思いました。
帯にも書いてあるのですが、数ページ目からもう作者の罠が始まってます。
イヤミスというよりとにかく「恐い」です。
数ある「女の復讐劇」作品でも結構群を抜いて恐いです。

最初はただAV業界の人たちの真の顔に迫っていくような、インタビューレポートを読んでいるのですが、 途中から急にインタビューしたそのAV女優たちが全員謎の死を遂げていくというミステリーへと突入していきます。

ただでさえ、AV業界のどろどろとした話で何ともいえないイヤミス感がある中で急にハラハラさせられる展開へとなっていきます。

最初にぼーっと目で追いながら読んでいた冒頭部分が重大な鍵を握っていて、思わず後半突入前に読み直したので、必ずしっかりと読むことをお勧めします。

4)私という名の変奏曲

私という名の変奏曲 (文春文庫)

私という名の変奏曲 (文春文庫)

整形で誰もが絶賛するトップモデルとなったレイ子が殺された。
容疑者は7人だが、7人全員が自分がレイ子を殺したと思っており、また全員の殺害方法、当日の証言が事細かにすべて一致している。
レイ子は7回同じ手口で殺されたということになるのだろうか・・・?
あらすじをものすごく簡単にまとめるとこんな感じです。

全員が犯行前に話したこと、見たレイ子の動き、殺害手口、レイ子の死の直前、全てぴったり一致をしていて、 トリックが本当に巧妙で、解けたときは思わず唸ってしまいました。

初めて連城さんの小説を読んだのですが、本当に「美しいミステリー」でここまでミステリーが美しく描けることに感動しました。
主人公レイ子の傲慢っぷり、冷淡さ、執念の深さにはぞっとしますが、読み終わった後になぜか美術品を読んだような気持になるのは、連城さんの文章力や物語の構成力なのだと思いました。

5)賢者の愛

賢者の愛 (中公文庫)

賢者の愛 (中公文庫)

私が上半期読んだ中で一番おすすめかもしれない1冊です。
谷崎潤一郎の「痴人の愛」が題材になっているのですが、そこもまた私の中で掴まれたポイントでした。
痴人の愛」では愛に溺れる男性が描かれていましたが、「賢者の愛」では愛ゆえに復讐に溺れる女性が描かれています。

親友に初恋でずっと恋い焦がれていた人を取られた主人公は、その二人に男の子が生まれたときに復讐を決意します。
その子を「痴人の愛」と同じ「直巳(ナオミ)」と名付け、まさに小説と同様直巳を20年かけて調教していきます。

とにかくずっと「嫉妬」や「恨み」でどろどろしています(笑)
物語の最初は直巳を自分の理想通りに育て上げ、自分のモノにした主人公真由子が一歩上手に見えるのですが、後半になり、親友の百合が凄い勢いで巻き上げてきます。
この百合ちゃんは凄いです。現実でもこういう質の悪い子がいたらと思うと本当に恐ろしいです。(笑)

ラストもかなり衝撃的過ぎて読み始めから終わりまで始終心がハラハラざわざわさせれていました。