my bookshelf

本の感想保管庫

中盤くらいから衝撃が止まらない小説、話題のカズオ・イシグロさん読んでみました

これも前のブログで書いてた記事をそのまま持ってきたやつですが、

ちょっと前に話題になったカズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』

 

お堅いイメージだったけどすぐ読み終わるくらいラフに読める

 

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 

恥ずかしながら全然イシグロさんの本は読んだことがなくて、今回初めて読みました。

恐らく私同様、今回のノーベル文学賞で知った方もいるのではないかなぁと?

 

文学っぽい感じがぷんぷんしましたが、難しい言葉もなく、翻訳の土屋政雄さんが凄くライトに読めるように仕上げているのだなぁと感じました。

 

クローン人間に人権はあるべきだと思いますか?

読了レポートここから。

 

主人公キャシーがヘールシャムの思い出と自分の人生を振り返りながら語っていくのですが、最初前半はパズルピースの端っこを渡されているような気分で、「そもそも保護管って誰?ヘールシャムって何?」のような疑問を持ちながら読み続けていく流れになります。

中盤になって、登場してくる人物は全員「臓器提供のために作られたクローン人間」であることを知ります。

 

背景として、この小説が書かれたのが丁度クローン羊ドリー (羊) - Wikipediaが成功したのをきっかけにクローンやクローン人間について様々な意見が飛び交ってた頃です。

 

人間が決して手を出してはいけない“神の領域”、クローン人間。

ちょっとSFチックですが、実際にクローンの赤ちゃんが成功しかけたという話がこの後に出てきます。

 

「クローン人間」と聞いて私は単に細胞が誰かのコピーなだけであって、「人間」は「人間」というイメージを持っています。

私の中での「人間」それは‟自分の意志と感情を持っているもの”

 

一方で「臓器提供するためのクローン人間」と聞くと「人間という器をしている物体」と思い浮かぶ人もよう。

実際にこの物語に出てはこないですが、元々クローン人間を臓器提供の‟道具”として考えた人がいるわけで、いるからこそ臓器提供者が作られる世界が描かれています。

 

人はある水準が当たり前になってしまうと、その水準を変えることができない。

つまり、それまで治らないといわれていてた病気が臓器提供が普通になり、治るのが当たり前になってしまう。

 

でも、クローン人間にも意思はあり、その人の人生があり当たり前を生きる権利がある。

人間らしさを描くことによって、その当時の議論に訴えかけているのです。

 

人間臭いけど臭すぎて少し人間離れしている世界

物語の中で、彼・彼女たちは非常に人間らしく描かれています。

幼少期には数か月に1回しかない交換会で自分たちの‟所有範囲”であることを示すための小物をチケットと交換して、部屋に飾ったり。

思春期には性に興味を持ち始めたり。

 

ただ、1つ彼女たちが人間らしくないところがあるとすれば、‟自分”の考えや意見を突き通そうとする気持ちが非常に強く、またどれだけお互いに意見がぶつかり合っても納得がいくまで相手と向き合い姿勢。

 

どの登場人物もなかなかの我がままで空気の読めなさを持っています。

「え、そこでそういう態度とっちゃうの?」

「え、それそこで言ったらだめでしょ」

とか読みながら思っちゃうんですよね(笑)

 

それがイシグロさんが描いたクローン人間の‟人間らしくない部分”なのかなと思います。

そして、人間の行動心理や組織的なところについて非常に研究されて書いているなと感じました。

 

彼女たちはヘールシャムという育ってきた施設が一緒ということが唯一の繋がりであり、また反対に同じ施設で育ってきた人たちしかコミュニティがないのです。

故にどれだけ喧嘩をしても、仲間外れになっても、意見が衝突しても決して切ることはできず、だからといってそのコミュニティの中で上手くやろうともせず。

家族のようであって家族でなく、だからこそちょっとしたヒビで気まずさが永遠に続いたり。

そこにしかコミュニティがない人たちの行動心理と自分を押し通すというキャラクターを融合させながら書いています。

 

ドラマも映画も観てないけど

俄然本の方がいいだろうなと思いました。

理由:

・最後が思い出の振り返りが終わって・・・みたいな感じで終わるので、映像で見るとふわっとした終わり方に見えそう。

 

・主人公目線での話が多く、何を考えているのかしっかりと言葉に表現されているからこそ分かる登場人物の見方があり、分かったうえで読み進んでいった方が深く入り込める。

 

からです!

読み終わって、わかったうえ映画を観たいなと思う作品でした。